SSブログ

一滴の生涯 [作者のおすすめ]

ある日、女の子が足をぶつけてしまって、大きな涙をポロポロこぼしていました。
その涙の中に「一滴」がいました。
「一滴」は女の子の頬を伝ってあごにひっかかりました。女の子のお母さんがなぐさめながらティッシュで「一滴」とその仲間たちをふき取りました。
「一滴」はティッシュにしみこんだまま、ゴミ箱の中に入っていきました。
時間が経ち、「一滴」はだんだん暖かくなってきました。仲間たちはどんどん透明になって空に上っていきました。「一滴」もとうとう、ふわり、と空に上りました。
でも、そこは空ではなく、女の子の家の天井でした。
そこにずいぶん長い時間いたと思ったら、いつのまにか冷たい窓ガラスに近づいていました。
「冷たい! 」 「一滴」がそう思ったときには、「一滴」はもう透明ではなく仲間たちとくっついて露になっていました。
また、お母さんが「一滴」たちをふき取りました。今度はティッシュではなくて、もっとごつごつしたものでふき取られました。
そのごつごつしたものがねじねじにひねられると、「一滴」は仲間と一緒に暗〜い管の中を流れていきました。「一滴」は目が回って、しばらく何も覚えていませんでした。
気がつくと大きな海のような所にいました。お日様がサンサンと降り注いで、「一滴」はまた暖かくなって透明になり、空に上っていきました。
今度は、本当に空に着きました。どんどん、どんどん上っていくと大きな町が、遥か向こうまで見えてきました。「きれいだなぁ」と「一滴」は思いました。
それからどれだけの時間がたったのでしょう。「一滴」はちょっと、白っぽいふわふわの体になって空に浮かんでいました。
それから、またどんどん時が経って、ずいぶんと寒い日が続くようになりました。
「一滴」は寒さで体が重たくなってきて、空に浮かんでいるのが大変になってきました。
そして、ある日、とうとう「一滴」は自分の重さに耐えきれなくなって、すとーん、と落ち始めました。どこまで落ちたのか、「一滴」はまた、ふわっと軽くなった気がしました。
ふわふわ、ふわふわ、「一滴」は空の旅を楽しみながら、ゆっくりと町の方に落ちていきました。
「一滴」が落ちたところは女の子のピンク色の手袋の上でした。
「ママ、雪の結晶つかまえた!見て、見て」女の子が「一滴」を部屋の中のお母さんに見せました。
「まぁ、きれい! 」
「一滴」は女の子とお母さんにじっと見つめられて頬が赤くなり、恥ずかしがるようにまた透明になって、今度は女の子のまつげにくっつきました。
今も「一滴」は女の子の部屋の中で楽しく暮らしています。
じゃ、おやすみ。

タグ:一滴 水滴


2021-01-25 12:21  nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証: 下の画像に表示されている文字を入力してください。

  ※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
 

このブログの更新情報が届きます

すでにブログをお持ちの方は[こちら]