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耳の短いウサギの話 その1 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に、一匹だけ耳の短いウサギが住んでいました。
本当はウサギは鳥みたいに1羽2羽と数えるそうですが、鳥じゃないので1匹です。
ウサギの耳が長いのは、とても臆病なので、近づいてくる敵をなるべく早く音で感じるためです。
ですから、この耳の短いウサギは敵から逃げるのが遅れるのではないかと、いつもびくびくしていました。
ある日、こわいオオカミが近づいてきました。ウサギたちはすぐに気がついて逃げ出しました。
耳の短いウサギもみんなが逃げるのに合わせて一緒に逃げました。
でも、オオカミは一匹ではなかったのです。西の方に逃げたウサギたちは、急に南に向きを変えて逃げ出しました。耳の短いウサギは何が何だかわからないままに転がるように逃げました。
オオカミは南からも迫ってきました。
ウサギたちは、すっかりオオカミたちに囲まれてしまったのです。
「もう、だめだ」耳の短いウサギがそう思ったとき、ウサギたちは長い耳を広げて、ふわっと空に飛び上がりました。
「えっ!?」耳の短いウサギは、びっくりしました。
「ウ、ウサギって、空を飛べたんだ!」
オオカミたちもびっくりして空を見上げていました。
でも、オオカミたちは、一匹だけ空に飛ばずに残っているウサギがいることに気付いてしまいました。
耳の短いウサギは、「今度こそ、もうだめだ!」と思いました。
その時、遠くの空の上から、小さい声で歌が聞こえてきました。
「♪ウサギは1匹じゃないよ1羽だよぉ。♪オオカミから逃げるなら………」
「えっ?大事なところが聞こえないよぉ」
「♪ウサギは1匹じゃないよ1羽だよぉ。♪オオカミから逃げるなら………」
「えっ?なになに?」耳の短いウサギはオオカミから逃げる方法を聞こうと必死に耳を伸ばしました。
「♪ウサギは1匹じゃないよ1羽だよぉ。♪オオカミから逃げるなら………」
「えっ?どうするのぉ〜」
一匹のオオカミが耳の短いウサギに跳びつこうとした時、耳の短いウサギはちょっとだけふわっと宙に浮かびました。
オオカミは捕まえようと跳びかかりましたが、耳の短いウサギは何とか逃げることが出来ました。
次の日、周りのみんなを見ていると、みんな自分の耳をせっせと伸ばす体操をしていることに気がつきました。
耳の短いウサギは、自分が今まで努力が足りなかったことに気付き、それからはみんなよりも頑張って体操をしました。
じゃ、おやすみ。

タグ:童話 ウサギ



耳の短いウサギの話 その2 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、たまにはどこか遠くへ冒険をしてみようと考え、旅の準備をしました。
野菜をいっぱい詰めて、おなかをこわしたときのための薬草を詰めて、迷子にならないように小さなお花を穴の空いた葉っぱに詰めて。
「よし、準備オッケー。さあ、出かけるぞ」
耳の短いウサギは、元気よく旅に出発しました。
しばらく行くと、小さな村に着きました。村には小さな小学校がありました。
「小学生なら、ボクをかわいがってくれるにちがいない」
耳の短いウサギは、ぴょんぴょんと校庭の中に入っていきました。
校庭では、1年生たちが体操をしていました。
耳の短いウサギは、すぐ近くまでぴょんぴょんと近づきました。
でも、ここは山の中の小学校です。誰も動物なんて珍しがってくれません。
くやしくなった耳の短いウサギは、1年生の真ん中に入っていって、自分をアピールしました。ひとりの男の子がやっと見てくれて、「あれ ?ウサギかと思ったら、こいつウサギじゃないよ」と言いました。
「本当だ。耳が長くないよ」「大きなネズミかな ?」「カピバラだ。」
やっと、みんなの注目を浴びて、耳の短いウサギはうれしくなりましたが、ウサギだとわかってくれないので怒ってしまいました。
そこで、自慢の歌を歌いました。
「♪ウサギは1匹じゃないよ1羽だよ。オオカミから逃げるときは飛んじゃうよ♪」
「うわ、カピバラが歌ってる !」「カピバラなのにウサギの歌を歌ってる」「ウサギじゃないから飛べないくせに」1年生たちは好きなように言いました。
それを聞いた耳の短いウサギは、もう、かんかんに怒っちゃって、「ボクはウサギだから飛べるんだよ !」と言いながら、必死に短い耳をのばしました。
すると、体がふわっと浮かび上がり、校庭の中をくるくると飛び回りました。
1年生たちはびっくり。みんな大喜びです。
「すごい、飛んでる !」「カピバラじゃなくて、ウサギだったんだ !」「かっこいい !」「かわいい !」
1年生たちにやっとウサギだとわかってもらえて、大喜びもされたので、耳の短いウサギはすっかりご機嫌になり、さかさまに飛んだり、1年生たちの頭の上に着陸したりして1年生たちを喜ばせました。
「やっとウサギのすごさがわかってもらえた !」
耳の短いウサギがそう思ったとき、先生がきっぱりと言いました。
「あれは、空を飛んでいるので、ウサギではありません ! 」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その3 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、性懲りもなく、また小学校にやってきました。
「今度こそ、ボクがウサギで、ウサギはすごいんだということをわからせるぞ」
耳の短いウサギは、はりきっていました。
ぴょんぴょんと校庭に入っていくと、悪いことにまた1年生が体操をしていました。
耳の短いウサギは、一緒に整列して体操をしました。
しばらく頑張って体操していると、やっとひとりの男の子が気付いてくれました。
「あれ ?この前のカピバラみたいなのが、また来てるよ」
「本当だ。今度は体操してる」
「ちょっと体操間違ってるし」
「体操するカピバラって、変だよね」
1年生は、また好きなように言いました。
耳の短いウサギは「ここは、落ち着いていこう」と思い、得意な、耳を伸ばす体操を始めました。
「何だ ? 違う体操始めたぞ」
「耳を伸ばしてるんじゃない ?」
「おもしろそう。ボクもやってみたい」
「ボクも」「わたしも」
と1年生たちは耳の短いウサギに教えてもらって、耳を伸ばす体操を始めました。
「おもしろい」
「楽しい」
1年生たちは大喜びです。
耳の短いウサギは「やった。今度こそ、ボクのすごさをわかってくれたんだ」
と思いました。
その時、先生がきっぱりと言いました。
「子供たちは、耳を伸ばす必要はありません ! 」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その4 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、小学校に懲りたので、今度は山の中の幼稚園にやってきました。
「幼稚園の子なら、絶対ウサギのすごさがわかってくれるはずだ。幼稚園の先生はやさしいから、あんなにきっぱりと言ったりしないだろう」
耳の短いウサギは、期待して、わくわくしていました。
幼稚園に着くと、園庭で園児たちが体操をしていました。
耳の短いウサギは、ぴょんぴょんと園庭に入っていきました。
小学生と違って、園児たちはすぐにウサギに気が付いてくれました。
「やった。やっぱり幼稚園はいいな」耳の短いウサギはそう思いました。
「かわいい動物が来た」「さわりたい。さわりたい」「かじらないかな ? 」
耳の短いウサギは園児のおててをペロッとなめてあげました。
「くすぐったい」「気持ちいい」
園児たちは大喜びです。
耳の短いウサギは嬉しくて仕方がありませんでした。
でも、ウサギに夢中になった園児たちはすぐに調子に乗って、ウサギの舌を引っ張り出したり、しっぽを踏んづけてみたり、耳を引っ張ったりしました。
「いたたたた・・・」
耳の短いウサギは空を飛んで逃げました。
園児たちはびっくりして空を見上げました。
「すごい。空を飛んでる ! 」「かっこいい ! 」
先生もびっくりして、「あれはウサギかしら ? ウサギが空を飛ぶなんて、素敵 ! 」と言ってくれました。
「やった。今度は先生もボクのすごさをわかってくれた」
耳の短いウサギが大喜びしたとき、園長先生がやってきて、きっぱりと言いました。
「遊んでないで、ちゃんと体操しなさい ! 」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その5 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、幼稚園でひどい目にあったので、またまた小学校にやってきました。またまた1年生が体操していると大変なので、今度は時間を変えてやってきました。
すると、今度は6年生が走り高跳びの練習をしていました。
6年生は何度も何度も跳びますが、なかなか1メートル10センチが跳べないようです。
耳の短いウサギは、なんだか心配になって夢中になって応援しました。
すると、ひとりの背の高い男の子がぴょんっと跳び越しました。
耳の短いウサギはうれしくなって近くに置いてあった白い旗をピッと挙げました。
それを見た学級委員長がしっかりと言いました。
「先生、変な動物が校庭に入っていますが、どのようにしたらよろしいでしょうか?」
「うん ? 本当だ。でも、こわそうじゃないし、ちゃんと旗を挙げて働いているようだからそのままにしておいていいだろう」
「はい、わかりました」
学級委員長は元の席に戻りました。
ひとりの男の子だけが1メートル15センチに挑戦しましたが、なかなか跳べません。耳の短いウサギは思わずみんなの前に飛び出しました。
そして、ぴょんぴょんと高跳びのバーに向かって走り出しました。
6年生は「あの動物、高跳びに挑戦するみたいだぞ」「ぴょんぴょん跳んでるから跳べるのかな?」「あの小ささでは無理だろう」「でも、動物にはすごい能力があるって先生がおっしゃっていたぞ。」などと言いました。
6年生たちの落ち着いた注目の中、耳の短いウサギはバーの手前でビョーーーンとジャンプしました。
でも、ジャンプは1メートル15センチのバーには届きそうにもありません。
「やっぱり、無理だ」「仕方ないよ。小さいんだから」「やっぱり、動物の能力にも限界があるよね」6年生たちがそう言ったときです。
耳の短いウサギは、耳をぱたぱたさせてぐんぐん上に上っていきました。
1メートル15センチのバーを越えて、校舎を見下ろす高さまで飛んで見せました。
その時先生が叫びました。
「信じられん。ウサギのような動物が空を飛んでいる。すごい ! すごい ! 」
先生は夢中になってカメラを取り出し、パチパチと写真を撮ったり、小躍りしてウサギを追いかけたり、大声で他の先生を呼んだりしました。
「やった。今度は小学校の先生もボクのすごさをわかってくれたんだ」
耳の短いウサギがそう思ったとき、学級委員長がきっぱりと言いました。
「先生、ちゃんと授業を進めてください」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その6 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、またまた小学校にやってきました。今度はうんと遅い時間に、もう、真っ暗になってからやってきました。
校庭にはさすがに誰もいませんでしたが、体育館は電気が付いて明るく輝いていました。
耳の短いウサギは体育館に行ってみました。
中をのぞいてみると、お母さんたちがたくさん集まって、楽しそうにバレーボールをしていました。
「お母さんたちならボクのことをかわいいって言ってくれるに違いない」
そう思って、耳の短いウサギは体育館の中へ入っていきました。
体育館の中は、お母さんたちの笑顔でいっぱいでした。
「楽しそうだなあ」とウサギがぼーっと見ていると、ひとりのお母さんが気付いてくれました。
「きゃー、かわいい」「何これ ? ウサギ ? 」「耳がちっちゃくてかわいい ! 」
お母さんたちは耳の短いウサギをもみくちゃにしてかわいがりました。
耳の短いウサギは幸せのまっただ中にいました。
「うちのチームのマスコットにしようよ」「いいわね」
「連れて帰りたい ! 」「何かエサなかったかしら」
お母さんたちは試合も忘れてウサギに夢中です。
耳の短いウサギは「よーし、今がチャンスだ。ボクがすごいってことを教えなくちゃ」と思いました。
試合は進み、あと1点取ればチームは勝ちそうです。
耳の短いウサギは、この時だ、と、ひとりのお母さんの手に勝手にタッチをして、コートの中に入っていきました。そして、高く上がったボールに向かってぱたぱたと飛び上がり、ぴょんぴょんする強い足でボールをアタックしました。
ボールはみごとに相手コートに突き刺さりました。
お母さんたちは大喜び。
「すごい ! 」「勝った ! 勝った ! 」「ウサギちゃんが飛んだ ! 」「信じられない ! 」「ばんざい ! ウサギちゃん ! 」
「やった。お母さんたちもボクのすごさをわかってくれた」
耳の短いウサギがそう思ったとき、審判がきっぱりと言いました。
「マスコットは試合に出られません。退場 ! 」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。



モモンガが感動したこと(耳の短いウサギの話スピンオフ) [耳の短いウサギシリーズ]

ある森に、かわいいモモンガが住んでいました。
モモンガは前足と後ろ足の間に膜があって、四本の足を広げて木から木へ、とてもかっこよく飛ぶことのできる動物です。
森では、「最近、ウサギが空を飛び始めたらしい」といううわさが流れていました。
それを聞いたモモンガは、「ウサギが空を飛ぶなんて、そんなバカな」と思いました。
そこで、ウサギが飛ぶところを見に行こうと出かけました。
ところが、ウサギは全然いません。探すのも面倒なので、モモンガは膜を広げてかっこよく空を飛びながら帰ろうと思いました。
すると、木の葉っぱが、ざざざざ、ざざざざっと動いているのに気が付きました。
「何かいるな。ウサギかもしれない」と思ったモモンガは、近くの木に着陸して様子をのぞき込みました。
すると、葉っぱがいっぱい付いた木の枝を、たくさんのリスが走り回っていました。
「なんだ、リスか」そう思って帰ろうとしたとき、リスたちが、木の枝の先からピョーーーーンと跳びました。でも、近くの枝までも跳ぶことができずに、どてっと落ちたりしていました。
モモンガは、おなかをかかえて笑いながら、「ウサギが飛ぶっていう話を聞いて、リスたちも飛ぶ練習を始めたんだな。バカだなぁ、リスが飛べるわけないのに……」と言いました。
モモンガに笑われても、リスたちの練習は続きました。何度も何度も、落ちても落ちても、リスたちは一生懸命に飛ぶ練習を続けました。
すると、ある1匹が10メートルも離れた枝まで、見事にジャンプしました。続いて他のリスたちも次から次へと遠くまで飛び始めました。それはそれは見事なジャンプが続きました。
モモンガはびっくりしてぽかーーんと空を見上げました。
感動したモモンガは家に帰ってお母さんにリスたちの話をしました。
モモンガのお母さんは言いました。
「バカだねぇ、お前は。リスが飛ぶ練習をして、上手に飛べるようになったのがモモンガなんだよ。リスが飛べるのは当たり前じゃないか」
モモンガはまたまたびっくりして、水たまりの自分の姿を見に行き、「お母さんの言うことは本当だ。ウサギが飛ぶというのも本当にちがいない」と思いました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その7 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、最近、リスが飛ぶ練習を頑張って、モモンガに進化したらしい、とか、働きアリの1年生がみんなで楽しそうに空を飛んでいた、といううわさを聞きました。
そこで、「虫や動物はみんな、練習すれば空を飛べるのかもしれない」と思い、動物たちに飛び方を教える先生になろうと考えました。
そこで、耳を伸ばす体操を念入りにしてから、張り切って森の動物たちに会いに行きました。
最初に出会った動物はウマでした。ウマは野原を優雅に走っていました。
張り切っているウサギは、すぐにウマに近付いていって、耳の伸ばし方を教えました。でも、ウマは「フン」と鼻で笑っています。
ウサギは、「空を飛ぶことはすばらしいことなんだよ」と一生懸命説明しましたが、ウマは「何言ってんの」という顔をしていました。
ウサギはますます張り切って飛び方を教えようとしましたが、ウマは無視して走り出し、ウサギが見ている目の前でペガサスになって天高く飛んでいきました。
耳の短いウサギはびっくり。
「やっぱり、動物はみんな飛べるんだ ! 」とわかりました。
次に出会ったクモも、ウサギが教えなくても、糸を上手に空にのばして、フワリと飛んでいきました。
耳の短いウサギはますます張り切りました。
次にウサギはタヌキに会いました。
ウサギはタヌキに「君も空を飛べるんだよ」と説明し、耳を伸ばす体操をさせてから、崖の上からジャンプさせました。
でも、タヌキは崖の底に真っ逆さまに落ちていったきりでした。
耳の短いウサギは、すまなそうに山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。

この話の続きは「崖から落ちたタヌキ」「湖に落ちたタヌキ」です。そちらも読んでみてくださいね。



崖から落ちたタヌキ(耳の短いウサギの話スピンオフ) [耳の短いウサギシリーズ]

崖から落ちたタヌキは、「あのウサギめ、でたらめを教えやがって、ふんづかまえてひどいめにしてやる」と思いました。
森の中をヨロヨロと歩きながら、「耳の短いウサギを見なかったか ? 」「耳の短いウサギを知らないか ? 」とたずねて歩きました。
でも、そうきかれたみんなは口をそろえて、「バカか、おまえは。耳が短かったらウサギじゃないだろう」「耳が長いのをウサギって言うんだぞ」と言いました。
そう言われると「そうかもしれないな」と思えてきました。
「じゃ、あいつはいったい、何だったんだ ? 」タヌキはあたまを強くぶつけたせいもあって、何が何だかわからなくなってきてしまいました。
そこに、1匹のメスのタヌキがやってきました。
メスのタヌキは「どうしたの ? 」とききました。
フラフラのタヌキが説明すると、「まぁ、かわいそうに」とかわいい顔で微笑みながら優しく言いました。
その様子を見て、フラフラのタヌキは胸がキュンとなり、メスのタヌキが大好きになってしまいました。
メスのタヌキは「私についてきて。いいところを教えてあげる」と言いました。
フラフラのタヌキは、このメスのタヌキの言うところならどこへだってついていきたい気持ちでした。
2匹で仲良く話をしながら歩いている間、タヌキはとても幸せな気分でした。
耳の短いウサギのことも許してやろう、という気持ちになってきました。
メスのタヌキはとても楽しい話をしながら、タヌキの体を心配してくれたりしました。タヌキはメスのタヌキのことがますます大好きになってきました。
しばらく歩くと、メスのタヌキが「この崖を登った所よ」と言いました。
タヌキは、「何があるのかな ? 」とワクワクしました。
崖を登るとメスのタヌキは「ほら、見て。きれいな湖でしょう ? 」と言いました。見ると、それはそれは美しい湖がありました。タヌキはしばらく見とれていました。
メスのタヌキは、「ここなら空を飛ぶ練習をしても、水に落ちるだけだから痛くないわよ」と言いました。
タヌキは、「えっ ? 」って思いましたが、メスのタヌキがかわいい顔で言うので、「そうかぁ。本当だ。これなら安心。今度こそ空を飛べるに決まってるさ」
と言って、耳を伸ばす体操をしてから、「えい ! 」と崖からジャンプしました。
メスのタヌキはタヌキが空を飛ぶところを一目見ようと身を乗り出して見ましたが、見えたのは水しぶきだけでした。
じゃ、おやすみ。



湖に落ちたタヌキ(耳の短いウサギの話スピンオフ) [耳の短いウサギシリーズ]

さて、湖に落ちたタヌキは、びしょびしょになって岸に上がってきました。
「ふぅ、あの子が言ったように水に落ちるのはそんなに痛くなくて助かったけど、オイラは泳げないから、その後が大変だったなぁ」
ヘトヘトになったタヌキは、岸に上がって寝っ転がりました。
そして、深い深—い眠りにつきました。
目が覚めると、タヌキは手足を縛られて木にぶら下げられていました。
「うわっ、しまった。人間に捕まったんだ ! オイラのことを食べる気だな。どうしよう」
タヌキは縛られている縄をはずそうと、必死にもがきましたが、縄はなかなかはずれてはくれませんでした。
人間たちが近寄ってきました。薪を拾い集めて、そこに大きな鍋を吊そうとしていますが、鍋が大きすぎて吊すのに苦労しているようです。
仕方なく、少し小さめの鍋を吊し始めました。
「タヌキは大きすぎて無理そうだから、もう少し小さい獲物を食べようか」などと相談しているようです。
「やった ! オイラを食べるのはあきらめてくれるのかな ? 」タヌキはちょっと喜びました。
そこに、何も知らないウサギたちがぴょんぴょんと飛び出てきました。
「バカ ! そっちは人間が鍋をぶら下げて待っているのに ! 」タヌキはウサギたちがみんな捕まって食べられてしまうと思いました。
「やめろーーーーー ! 」タヌキは、ウサギたちを助けようと大暴れしました。すると、吊り下げられていた木がポキンと折れて、タヌキは地面に落ちました。
「何回も落っこちる日だな」とタヌキは思いましたが、そんなことはかまっていられません。手足の縄は取れないままで、タヌキは人間たちの方へ走っていきました。
人間たちは、飛んで火にいるウサギたちを捕まえようとしていました。
でも、ウサギたちは耳を伸ばして、パタパタさせると、空にふわっと飛んで軽々と逃げて行きました。
人間はびっくりして目をぱちくりさせていました。
そこに、「うぉーーー」と叫んでタヌキがやってきたので、「仕方がない、やっぱりタヌキを食べよう」と言って、追いかけてきました。
タヌキは、必死に森の中へ逃げましたが、手足を縛っている縄が邪魔でうまく走れませんでした。
人間が、もう、すぐそこまで追いかけてきたとき、タヌキの目の前の森が急に開けて、遠くの山まで見えてきました。
「今日は、やっぱり崖から落ちる日なんだな」タヌキはすぐに、自分の運命に気が付きました。もちろん、人間に食べられるのと、崖から落ちるのとどっちがいいかときかれたら、「崖から落ちる」と心に決めて、タヌキは今日3回目の崖からジャンプをしました。
「1日で3回目ともなると、崖から落ちるのも、結構気持ちがいいなぁ」とタヌキが思ったとき、よく見ると、タヌキの手足を縛っている縄を、数え切れないほどのウサギたちが必死につかんでいました。そして、ウサギたちが耳をパタパタさせて飛んでいるので、タヌキも大空を飛んでいるのでした。
「すごーーーーい。オイラ、空を飛んでる ! 」タヌキはふわふわと大空を飛びながら夢のような気持ちでいました。
ウサギたちはタヌキを草原に降ろして、前歯で縄をかみ切ってあげて、みんなでタヌキにお礼を言って帰って行きました。
タヌキは、そのウサギたちの中に1匹だけ耳の短いウサギがいたことに気が付きました。
じゃ、おやすみ。

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お読みいただいてありがとうございます。
昨日までの閲覧数ベスト10を載せておきます。
1、アメリカクロクマの進化
2、犬は覚えていた
3、崖から落ちたタヌキ
4、昭和の写真館
5、シャボン玉に包まれて
6、怠け者とお殿様
7、世界一高いタワーをささえるもの
8、犬とプチプチ
9、桜の花とおばあさん
10、天空の街マチュピチュ
次点、古い映画館が待っているもの



耳の短いウサギの話 その8 (奄美大島編) [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、空をパタパタと飛んで、奄美大島という島にやってきました。この島と隣の徳之島にだけ住む「アマミノクロウサギ」というとっても珍しいウサギが、自分と同じように耳が短いという話を聞いたので会いに来たのでした。
島と言っても大島と言うだけあって、奄美大島は結構大きな島でした。
耳の短いウサギはアマミノクロウサギを探しましたが、空の上からでは大きな木がたくさんあって見えません。山を歩いて探しましたが、アマミノクロウサギは1羽もいませんでした。
「さすが、珍しいウサギだなぁ。なかなか会えないぞ。」と思い、島の動物にきいてみることにしました。
すると、「教えてあげてもいいけど、クイズにしちゃおうかな ? 」
「クイズ ! いいねぇ。楽しそう。出して、出して」
耳の短いウサギはクイズにしてくれるときいて、うれしくなりました。
「あのね、どうしてキミはアマミノクロウサギになかなか会えないのでしょうか ? ヒントは名前です」
「名前がヒントなの ? うーーん。……、わかった ! 「アマミ」だから海女さんのように海に住んでいるんだね ? 」
「ブ、ブーー。違います。ウサギは泳げません」
「うーーーん。……、クロウサギ……、黒いから土の中に住んでいるの ? 」
「ちゃんと、外を歩いていますよ」
「うーーん、降参 ! 」耳の短いウサギはあっさりと降参しました。
「クロウサギだから、真っ暗な夜じゃないと出てこないんだよ」
「あっ ! そうか ! だから、昼間は会えないんだ。ありがとう。夜になったら探してみるよ」
耳の短いウサギは、夜になるのを待ちました。
夜になり、辺りは真っ暗です。真っ暗な闇の中でクロウサギを探すのは大変です。
耳の短いウサギは、その短い耳を一生懸命伸ばして、クロウサギの気配がしないか探っています。
すると、何かの動物の鳴き声が聞こえてきました。
「何だろう。ウサギは鳴くわけないし……」と耳の短いウサギが思ったとき、「こんばんは ! キミ、誰 ? 」と突然言われました。
「うわっ ! キミこそ誰 ? 」ときくと、「ボクはアマミノクロウサギだよ。ボクに会いに来てくれたんでしょ ? 」と返事が返ってきました。
「キミがアマミノクロウサギか ! ボクが会いに来たことを知っていたんだね」
「うん、森の動物たちからきいていたよ。だから、ボク、鳴いてキミに知らせたのに……」
「えっ ? キミってウサギなのに鳴けるんだ」
「だからボクは珍しいウサギって言われているんだよ。でも、キミもボクたちみたいに耳が短くて珍しいね」
「ボクは耳の短いウサギ。よろしくね」
ふたりはすぐにお友達になりました。
ふたりのお話は、また明日。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その9 (奄美大島編) [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
さて、アマミノクロウサギと耳の短いウサギは、仲良く海の方に出かけました。
真っ暗な海でしたが、近くの中学生が花火をして遊んでいるのが見えました。
「火を使う人間は、ちょっと怖いね。気をつけよう」とアマミノクロウサギが言いました。
人間と遊び慣れている耳の短いウサギは、「平気だよ。一緒に遊ぼうよ」と言いました。
ふたりは中学生の方に近づいて行きました。
中学生は女の子3人と、男の子4人でした。
女の子のひとりが、「ウサギが来た。かわいい ! 」と言って耳の短いウサギを抱き上げました。耳の短いウサギは、うれしそうに手をパチパチしました。
男の子が「本当だ。かわいい ! 」と言って、アマミノクロウサギを抱き上げました。アマミノクロウサギはびっくりして、するどい爪で男の子をひっかきました。
「いててててて。」男の子は泣きそうになりました。
周りの子たちは、「あはははは、アマミノクロウサギは爪がするどいんだぞ」と言いました。
女の子が耳の短いウサギのしっぽを「かわいい ! 」と言ってクニュクニュつかみました。
耳の短いウサギは、短い耳をピクピクさせて嬉しそうに笑いました。
男の子がアマミノクロウサギのしっぽをつかまえました。
アマミノクロウサギはびっくりしておならをプっとかましました。
周りの子たちは「あはははは、アマミノクロウサギのおならはくさいんだぞぉ」と言いました。
女の子が「かわいい ! 」と言って耳の短いウサギを抱きしめました。
耳の短いウサギは嬉しくなって、耳をバタバタさせたので、女の子も一緒に空に浮かびました。
びっくりした男の子が、「俺も空を飛びたい ! 」と言ってアマミノクロウサギに抱きつきました。
びっくりしたアマミノクロウサギは、逃げながら男の子のおしりをガブっとかみました。男の子は「いたーーーい」と言って飛び上がりました。
周りの子たちは、「あはははは、それは空を飛んでいるんじゃなくて、飛び跳ねてるだけだぞ」と言って笑いました。
みんなは、耳の短いウサギに抱きついている女の子に抱きつきました。
耳の短いウサギが頑張って耳をパタパタさせたので、中学生たちはみんな空に浮かびました。
「わーー、すごい」
「夢みたい ! 」
「俺たち、空を飛んでる ! 」
中学生たちは大喜びしました。
ひとりの男の子が「そうだ ! 」と言って、ポケットから花火を取り出し、火を点けました。
花火はうつくしい火花になって地上に降り注がれました。
奄美大島の人たちはみんな、「こんなに美しい流れ星を見るのは初めてだ ! 」と言って大喜びしました。
アマミノクロウサギだけは、「あいつの方が、よっぽど珍しいウサギじゃん」と言いました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その10 (奄美大島編) [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
さて、中学生たちと楽しく遊んだ耳の短いウサギでしたが、本当の目的のためにアマミノクロウサギたちに集まってもらいました。
耳の短いウサギはアマミノクロウサギたちに言いました。
「ボクたちウサギは、みんな空を飛ぶことができるのです。ウサギだけじゃなくて、ウマもクモもタヌキだって空を飛べるに決まっているんです。ボクはみんなと同じように耳が短いけど、中学生と一緒にだって空を飛ぶことができます。みんなも、この島にばかりいないで空を飛んで好きなところに行けるんです ! 」
「おおおぉぉぉ」アマミノクロウサギたちは耳の短いウサギの話に夢中になりました。
「でも、空を上手に飛ぶためには耳を伸ばす体操を頑張らなければなりません」
「おおおぉぉぉ」アマミノクロウサギたちは体操がしてみたくて、体がウズウズしてきました。
耳の短いウサギは、はりきって耳を伸ばす体操を教えました。
アマミノクロウサギたちは、一生懸命に体操をしました。
耳の短いウサギは、タヌキの時の苦い経験があったので、すぐに崖からジャンプさせたりはしないで、何回も何回も体操をさせました。
そのうち、アマミノクロウサギたちも耳の短いウサギもヘトヘトになってしまいました。
耳の短いウサギと友達になったアマミノクロウサギは思いました。
「耳が長くなったら、ただのクロウサギになっちゃうじゃん」
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その11 (奄美大島編) [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
さて、耳を伸ばす体操を頑張ったアマミノクロウサギたちは、「次はいよいよ空を飛ぶ番だ」とワクワクしていました。
耳の短いウサギも、「ボクみたいに耳が短くても空が飛べるんだし、タヌキと違って、この子たちはウサギだから、もう飛べるかもしれない」と思いました。
そこで、どうせ飛ぶならみんなに見てもらおうと考えて、みんなを連れて奄美大島第一中学校に行きました。このあいだの中学生が応援してくれると思ったからです。
みんなでゾロゾロと中学校の校庭に入っていきました。
ピョンピョンではなく、ゾロゾロと行ったのは、アマミノクロウサギはピョンピョン跳べないからでした。耳の短いウサギは、そこがちょっと不安でした。
中学生たちはすぐにウサギたちに気が付いて、窓から「きゃー、ウサギがたくさん来た ! かわいい ! 」と言って、授業をほったらかして手を振ってくれました。先生も一緒になって手を振っています。
ウサギたちは、さっそく耳を伸ばす体操を始めました。
「かわいい !」
「ダンスしてるぞ ! 」
「おまじないじゃないか ? 」
「とにかくかわいい ! 」
中学生たちは大喜びです。先生は、「ビデオに撮ってテレビ局に知らせよう」と言ってカメラを出してきました。
ウサギたちは、耳の短いウサギの号令に従って、耳をパタパタさせました。
すると、みんなは、フワっと浮かび上がりました。
アマミノクロウサギたちは大喜び、見ていた中学生たちは目をぱちくりさせて驚きました。先生はカメラを抱えながら腰を抜かしていました。
耳の短いウサギとアマミノクロウサギたちは、校庭を覆うほどの勢いで空を飛び回りました。
中学生たちは、窓から体を乗り出すようにしてウサギたちを応援しました。
耳の短いウサギが、「せーの ! 」と言うと、アマミノクロウサギたちは、一斉に手に持っていた森の花を散らせました。
中学校は空から降ってくるたくさんの花に包まれました。
中学生たちも、夢を見ているようなすばらしい気持ちに包まれました。
耳の短いウサギは、「このあいだ、きれいな花火を見せてくれたお礼だよ」と言いました。
先生は、「みんな、ウサギは1匹2匹じゃない ! 鳥みたいに1羽2羽と数えるんだ、わかったな ! 」と叫びました。
中学生たちは、「はーーーい、一生忘れません ! 」と言いました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その12 (ミャンマー編) [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、ミャンマーという国にやってきました。
ミャンマーには、貧しい人たちがたくさん住んでいるので、子供たちも学校に行けず、働いてお父さんお母さん、兄弟たちの面倒を見ていました。そんな話を聞いた耳の短いウサギは、子供たちを元気づけようと張り切っていました。
ミャンマーの小さな村に着いた耳の短いウサギはさっそく子供たちの家に行ってみました。
すると、幼稚園くらいの子供が赤ちゃんの世話をしていました。
自分もとっても小さいのに、もっと小さい子供のおしめを取り替えたり、ミルクを飲ませたりしていました。
耳の短いウサギは。その子供の前にピョンピョンと跳びだして行きました。そして、得意の耳を伸ばす体操をして見せました。
子供は、はじめびっくりしていましたが、ウサギの体操がおもしろいので、だんだん楽しくなって一緒に踊り始めました。赤ちゃんも楽しそうに体を動かしています。
その様子を見た、他の子供たちもたくさん集まってきました。
耳の短いウサギは、ますます張り切って体操をしました。
いつの間にか、村中の子供たちがウサギと一緒に体操をしていました。
子供たちは、ヘトヘトになるまで体操をしました。さすがの子供たちも疲れたようでしたが、その顔は今までで一番の笑顔でした。
耳の短いウサギは、とっても嬉しい気持ちになりました。そして、「明日もここに来よう」と思いました。
その夜、仕事から帰ってきたお父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんたちは、ちっちゃい子たちが泣きもせずにニコニコしているのが不思議でした。
「今日は子供たち、ずいぶん楽しそうな顔をしていますねぇ。お洗濯もお掃除もとっても上手にしてくれていましたし、とってもよい子でしたよ」とお母さんが言いました。
それを聞いたお父さんは、「本当だなぁ。なにかいいことでもあったのかな ? 」と言いました。
赤ちゃんの世話をしていた子供は、それを聞いてなんだかくすぐったいような、嬉しいような気持ちになりました。そして、「明日も明後日もウサギが遊びに来てくれたら嬉しいな」と思いながら、ぐっすりと眠りました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その13 (ミャンマー編) [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
ミャンマーにやってきた耳の短いウサギは、今日も張り切って子供たちの村にやってきました。
今日は、子供たちもウサギが来るかもしれないとワクワクしながら掃除や洗濯をさっさと済ませて待っていました。
そこへ耳の短いウサギがピョンピョンと跳びだして来ました。
子供たちは拍手をして迎えました。
耳の短いウサギは、気分を良くして耳を伸ばす体操を始めました。ミャンマーの子供たちも、すっかり体操を覚えてしまっていたので、みんなはすぐにそろって体操を始めました。
楽しく楽しく体操をした後、耳の短いウサギは耳をパタパタさせて空に飛び上がりました。
子供たちはびっくり。
ウサギは張り切って、空中回転したり、子供たちの頭のすれすれを飛んでみせたりしました。
子供たちも赤ちゃんたちも、目を閉じるのを忘れてしまうくらい夢中になって空を飛ぶウサギを見つめていました。
子供たちも赤ちゃんたちも「ボクも空を飛んでみたーーーーい」と思いました。
すると、子供たちと赤ちゃんたちの体がふわっと浮かび上がりました。
子供たちはびっくりしましたが、赤ちゃんたちは嬉しくて楽しくて、もう、自由に空を飛び回り始めました。
それを見ていた子供たちも、好きなように空を飛び回りました。
みんなは、夕方になるまで飛び回り続けていました。
そこに大人たち、大きい子供たちが仕事から帰ってきましたが、みんな口を開けてびっくりしたまま、立ち尽くしていました。
耳の短いウサギは「すごいことになってきたぞ。人間も飛べるんだなぁ」と思いました。そして、「この大人たちにも耳を伸ばす体操をさせてみよう」と思いました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギの話 その14 (ミャンマー編) [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
ミャンマーの村は、たいへんな大騒ぎになっていました。
小さな子供たちと赤ちゃんたちが全部空を飛び回っているのですから、騒がない人がいるはずがありません。
赤ちゃんを心配したお母さんたちが、空に向かって手をいっぱいに伸ばし始めました。
耳の短いウサギは、その手を掴んで空に引っ張り上げました。すると、お母さんたちは空をフワフワと飛び始めました。
それを見ていたお父さんたちも、お年寄りたちも、ちょっと大きい子供たちも、みんな、みんな、空を飛び始めました。
「すごーーーーい ! 」
それから、ミャンマーの村の人たちは、遠くの大きな街や他の国にまで飛んでいって働いたり、買い物をすることが出来るようになりました。
そのおかげで、村はだんだん豊かになり、子供たちも働かなくてもよくなり、学校に通って勉強が出来るようになりました。その学校では、もちろん空の飛び方を教え続けました。
そして、その学校の校長室には「最初の校長先生」として、子供たちが描いた耳の短いウサギの似顔絵が飾られていました。
じゃ、おやすみ。



キルクディクディクと病気の子供(耳の短いウサギの話スピンオフ) その1 [耳の短いウサギシリーズ]

Jさんは、北アメリカの草原に住むという「キルクディクディク」という動物の写真を撮る為にやってきました。
キルクディクディクはバンビみたいな感じの動物で、顔はとってもかわいいし、シカのようにピョンピョンと美しい姿で跳びながら走ります。シカのような角も生えていますが、体に似合って小さくてかわいい角です。バンビとの違いで言えば、斑点のような模様はありませんし、口の形がちょっと変わっていて、アリクイっぽい感じの口をしていることです。
耳は、ひし餅を2つ頭に載せているような耳で、これもとってもかわいいのです。
Jさんは、そんなキルクディクディクの写真を撮って、ずっと入院している息子のベッドの上に飾ってあげたいと思っていました。
草原をジープで走っていると、いろいろな動物に会いました。そして、たいした苦労もなく、キルクディクディクが群れている所を発見しました。
Jさんは、気付かれないようにそっとジープから降りて、カメラを抱えながら歩いて近づいて行きました。
レンズ越しに見るキルクディクディクは、想像通りとってもかわいい動物でした。Jさんは、「これを見たら、息子は大喜びして元気になってくれるかもしれない」と思いワクワクしてきました。
キルクディクディクが耳をピーンと立てているところとか、ピョンピョンと跳ねているところの写真をいっぱい撮りました。
すると、さっきよりもキルクディクディクが大きく耳を伸ばしました。
「なんだろう ? 」と思って見ていると、少し離れたところに大きなオオカミが3頭、頭を低くして歩いているのが見えました。
「オオカミだ。キルクディクディクを食べに来たんだな。どうしよう」Jさんはハラハラしました。
でも、大丈夫。オオカミが襲ってくるより前に、キルクディクディクたちは長い足でビョーーーン、ビョーーーンと跳びながら逃げ出しました。
オオカミも必死に追いかけますが、キルクディクディクたちの逃げ足はとても速いのでした。
そして、その次の瞬間、Jさんは信じられないものを見ました。
キルクディクディクたちは大きく耳を広げて、空高く飛んで逃げて行ったのです。
オオカミも信じられない、といった風に大きな口を開けたまま空を見上げています。
Jさんは、カメラのシャッターを必死で押し続けました。
「すごい ! これは、これは絶対に息子に見せなくては ! 」
Jさんはそう言うと、カメラを大事に抱えて、ジープに走っていきました。
じゃ、おやすみ。



キルクディクディクと病気の子供(耳の短いウサギの話スピンオフ) その2 [耳の短いウサギシリーズ]

さて、キルクディクディクたちが空を飛ぶ写真を大きくプリントをして、Jさんは息子のKJの病室にやってきました。
KJは、今日もつまらなそうな顔をして、ベッドに寝ていました。
Jさんは、「すごい写真が撮れたんだぞぉ」と言って、キルクディクディクたちが大空を飛んでいる写真をKJに見せました。
KJは、びっくりしました。
「パパ ! ボクもキルクディクディクが飛ぶところを見たい ! 」とKJは叫びました。
その顔を見て、Jさんは、「KJがこんなに生き生きとした顔をしたのはずいぶん久しぶりだ。あれを見たら元気になってくれるに違いない ! 」と思いました。
そこで病院の先生に説明して、一緒に草原に出かける許可をもらいました。

今日は、JさんとKJが草原に出かける日です。
病院の先生は「草原に行くことがきまってからKJは食事も残さなくなり、顔色もすっかり良くなりました。でも、病気が治ったわけではないので、くれぐれも無理をさせないでください。」とJさんに言いました。
Jさんは、「わかりました」と言って出かけました。
ジープで何時間も揺られましたが、KJは頑張りました。ワクワク、ドキドキが押さえられない様子でした。
キルクディクディクのいる草原に着きました。
今日も、キルクディクディクたちは元気に遊んだり、草を食べたりしています。
KJは「かわいい ! かわいい ! 」と叫び続けていました。
JさんはそんなKJの様子を写真に撮り続けました。
KJはだんだんキルクディクディクたちのすぐ近くまで歩いて言ってしまいました。でも、子供だから安心しているのか、キルクディクディクたちは全然逃げることはなく、KJとキルクディクディクたちは友達のように一緒に遊び始めました。
Jさんは、また「信じられない ! 」と叫びながらシャッターを押し続けました。
キルクディクディクと遊んでいるKJの顔は、病気をする前の元気だった頃のKJの顔になっていました。
Jさんは、「やっぱり思った通りだ。KJは絶対に元気になれる。あとはキルクディクディクが空を飛ぶところを見せられればいいんだが……」と思いました。
じゃ、おやすみ。



キルクディクディクと病気の子供(耳の短いウサギの話スピンオフ) その3 [耳の短いウサギシリーズ]

ちょうどその時、KJとキルクディクディクが遊んでいる草原の草が不気味にザワザワと揺れ始めました。
オオカミが近づいて来たのです。
Jさんが「あっ ! 」と気付いた時は、もう手遅れでした。
キルクディクディクたちはすぐに気がついて跳ねながら逃げて行きましたが、KJは何が起こったのかわかりません。
オオカミは逃げ遅れたKJを追いかけて来ました。
Jさんは必死に走ってKJを助けようとしました。
でも、オオカミはKJを追いかけて、草原の奥の方に走って行きました。
Jさんの足では追いつきそうにもありません。ジープに戻ろうとした時です。
オオカミが走っていった方角の草がザザザザザサっと音を立てて揺れ始めました。
Jさんがびっくりして見ていると、草原いっぱいから、数え切れないほどのキルクディクディクたちが現れました。
キルクディクディクたちはKJの体をやさしくくわえました。
そして、いっせいに大空に飛び上がりました。
オオカミは、飛び跳ねてKJを襲い続けましたが、しばらくするとあきらめて山の方に帰っていきました。
オオカミがいなくなった後もKJはキルクディクディクたちと一緒に大空を飛んでいました。
Jさんは口を開けて、空を見上げていました。
すると、キルクディクディクはKJをくわえていた口を開いて、KJから離れてしまいました。
Jさんは、「あっ ! KJが落ちる ! 」と悲鳴を上げました。
でも、KJは落ちることなく、なんと、キルクディクディクたちと一緒に大空を飛び回りました。
その顔は、今までで一番の笑顔をしていました。
「パパ ! 写真撮ってぇ ! 」
KJのその声を聞いてJさんも安心をしてカメラのシャッターを押し続けました。
大空を飛んだその日から、KJはすっかり元気な子供になりました。
JさんはKJの部屋の壁という壁全部にKJとキルクディクディクがいっしょに大空を飛んでいる写真を貼りました。
じゃ、おやすみ。



耳の短いウサギ その1 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に、一匹だけ耳の短いウサギが住んでいました。
本当はウサギは鳥みたいに1羽2羽と数えるそうですが、鳥じゃないので1匹です。
ウサギの耳が長いのは、とても臆病なので、近づいてくる敵をなるべく早く音で感じるためです。
ですから、この耳の短いウサギは敵から逃げるのが遅れるのではないかと、いつもびくびくしていました。
ある日、こわいオオカミが近づいてきました。ウサギたちはすぐに気がついて逃げ出しました。
耳の短いウサギもみんなが逃げるのに合わせて一緒に逃げました。
でも、オオカミは一匹ではなかったのです。西の方に逃げたウサギたちは、急に南に向きを変えて逃げ出しました。耳の短いウサギは何が何だかわからないままに転がるように逃げました。
オオカミは南からも迫ってきました。
ウサギたちは、すっかりオオカミたちに囲まれてしまったのです。
「もう、だめだ」耳の短いウサギがそう思ったとき、ウサギたちは長い耳を広げて、ふわっと空に飛び上がりました。
「えっ!?」耳の短いウサギは、びっくりしました。
「ウ、ウサギって、空を飛べたんだ!」
オオカミたちもびっくりして空を見上げていました。
でも、オオカミたちは、一匹だけ空に飛ばずに残っているウサギがいることに気付いてしまいました。
耳の短いウサギは、「今度こそ、もうだめだ!」と思いました。
その時、遠くの空の上から、小さい声で歌が聞こえてきました。
「♪ウサギは1匹じゃないよ1羽だよぉ♪オオカミから逃げるなら………」
「えっ?大事なところが聞こえないよぉ」
「♪ウサギは1匹じゃないよ1羽だよぉ♪オオカミから逃げるなら………」
「えっ?なになに?」耳の短いウサギはオオカミから逃げる方法を聞こうと必死に耳を伸ばしました。
「♪ウサギは1匹じゃないよ1羽だよぉ♪オオカミから逃げるなら………」
「えっ?どうするのぉ〜」
一匹のオオカミが耳の短いウサギに跳びつこうとした時、耳の短いウサギはちょっとだけふわっと宙に浮かびました。
オオカミは捕まえようと跳びかかりましたが、耳の短いウサギは何とか逃げることが出来ました。
次の日、周りのみんなを見ていると、みんな自分の耳をせっせと伸ばす体操をしていることに気がつきました。
耳の短いウサギは、自分が今まで努力が足りなかったことに気付き、それからはみんなよりも頑張って体操をしました。
じゃ、おやすみ。


2019-12-25 21:48  nice!(0)  コメント(1) 

耳の短いウサギ その2 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、たまにはどこか遠くへ冒険をしてみようと考え、旅の準備をしました。
野菜をいっぱい詰めて、おなかをこわしたときのための薬草を詰めて、迷子にならないように小さなお花を穴の空いた葉っぱに詰めて。
「よし、準備オッケー。さあ、出かけるぞ」
耳の短いウサギは、元気よく旅に出発しました。
しばらく行くと、小さな村に着きました。村には小さな小学校がありました。
「小学生なら、ボクをかわいがってくれるにちがいない」
耳の短いウサギは、ぴょんぴょんと校庭の中に入っていきました。
校庭では、1年生たちが体操をしていました。
耳の短いウサギは、すぐ近くまでぴょんぴょんと近づきました。
でも、ここは山の中の小学校です。誰も動物なんて珍しがってくれません。
くやしくなった耳の短いウサギは、1年生の真ん中に入っていって、自分をアピールしました。ひとりの男の子がやっと見てくれて、「あれ ?ウサギかと思ったら、こいつウサギじゃないよ」と言いました。
「本当だ。耳が長くないよ」「大きなネズミかな ?」「カピバラだよ」
やっと、みんなの注目を浴びて、耳の短いウサギはうれしくなりましたが、ウサギだとわかってくれないので怒ってしまいました。
そこで、自慢の歌を歌いました。
「♪ウサギは1匹じゃないよ1羽だよ。オオカミから逃げるときは飛んじゃうよ♪」
「うわ、カピバラが歌ってる !」「カピバラなのにウサギの歌を歌ってる」「ウサギじゃないから飛べないくせに」1年生たちは好きなように言いました。
それを聞いた耳の短いウサギは、もう、かんかんに怒っちゃって、「ボクはウサギだから飛べるんだよ !」と言いながら、必死に短い耳をのばしました。
すると、体がふわっと浮かび上がり、校庭の中をくるくると飛び回りました。
1年生たちはびっくり。みんな大喜びです。
「すごい、飛んでる !」「カピバラじゃなくて、ウサギだったんだ !」「かっこいい !」「かわいい !」
1年生たちにやっとウサギだとわかってもらえて、大喜びもされたので、耳の短いウサギはすっかりご機嫌になり、さかさまに飛んだり、1年生たちの頭の上に着陸したりして1年生たちを喜ばせました。
「やっとウサギのすごさがわかってもらえた !」
耳の短いウサギがそう思ったとき、先生がきっぱりと言いました。
「あれは、空を飛んでいるので、ウサギではありません ! 」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。


2021-09-21 21:17  nice!(0)  コメント(0) 

耳の短いウサギ その3 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは性懲りもなく、また小学校にやってきました。
「今度こそボクがウサギで、ウサギはすごいんだということをわからせるぞ」
耳の短いウサギは、はりきっていました。
ぴょんぴょんと校庭に入っていくと、悪いことにまた1年生が体操をしていました。
耳の短いウサギは一緒に整列して体操をしました。
しばらく頑張って体操していると、やっとひとりの男の子が気付いてくれました。
「あれ ?この前のカピバラみたいなのが、また来てるよ」
「本当だ。今度は体操してる」
「ちょっと体操間違ってるし」
「体操するカピバラって、変だよね」
1年生は、また好きなように言いました。
耳の短いウサギは「ここは落ち着いていこう」と思い、得意な、耳を伸ばす体操を始めました。
「何だ ? 違う体操始めたぞ」
「耳を伸ばしてるんじゃない ?」
「おもしろそう。ボクもやってみたい」
「ボクも」「わたしも」
と1年生たちは耳の短いウサギに教えてもらって、耳を伸ばす体操を始めました。
「おもしろい」
「楽しい」
1年生たちは大喜びです。
耳の短いウサギは「やった。今度こそ、ボクのすごさをわかってくれたんだ。」
と思いました。
その時、先生がきっぱりと言いました。
「子供たちは、耳を伸ばす必要はありません ! 」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。


2021-10-20 22:19  nice!(0)  コメント(0) 

耳の短いウサギ その4 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、小学校に懲りたので、今度は山の中の幼稚園にやってきました。
「幼稚園の子なら、絶対ウサギのすごさがわかってくれるはずだ。幼稚園の先生はやさしいから、あんなにきっぱりと言ったりしないだろう」
耳の短いウサギは、期待して、わくわくしていました。
幼稚園に着くと、園庭で園児たちが体操をしていました。
耳の短いウサギは、ぴょんぴょんと園庭に入っていきました。
小学生と違って、園児たちはすぐにウサギに気が付いてくれました。
「やった。やっぱり幼稚園はいいな」耳の短いウサギはそう思いました。
「かわいい動物が来た」「さわりたい。さわりたい」「かじらないかな ? 」
耳の短いウサギは園児のおててをペロッとなめてあげました。
「くすぐったい」「気持ちいい」
園児たちは大喜びです。
耳の短いウサギは嬉しくて仕方がありませんでした。
でも、ウサギに夢中になった園児たちはすぐに調子に乗って、ウサギの舌を引っ張り出したり、しっぽを踏んづけてみたり、耳を引っ張ったりしました。
「いたたたた・・・」
耳の短いウサギは空を飛んで逃げました。
園児たちはびっくりして空を見上げました。
「すごい。空を飛んでる ! 」「かっこいい ! 」
先生もびっくりして、「あれはウサギかしら ? ウサギが空を飛ぶなんて、素敵 ! 」と言ってくれました。
「やった。今度は先生もボクのすごさをわかってくれた!」
耳の短いウサギが大喜びしたとき、園長先生がやってきて、きっぱりと言いました。
「遊んでないで、ちゃんと体操しなさい ! 」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。


2021-11-22 09:20  nice!(0)  コメント(0) 

耳の短いウサギ その5 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、幼稚園でひどい目にあったので、またまた小学校にやってきました。またまた1年生が体操していると大変なので、今度は時間を変えてやってきました。
すると、今度は6年生が走り高跳びの練習をしていました。
6年生は何度も何度も跳びますが、なかなか1メートル10センチが跳べないようです。
耳の短いウサギは、なんだか心配になって夢中になって応援しました。
すると、ひとりの背の高い男の子がぴょんっと跳び越しました。
耳の短いウサギはうれしくなって近くに置いてあった白い旗をピッと挙げました。
それを見た学級委員長がしっかりと言いました。
「先生、変な動物が校庭に入っていますが、どのようにしたらよろしいでしょうか?」
「うん?本当だ。でも、こわそうじゃないし、ちゃんと旗を挙げて働いているようだからそのままにしておいていいだろう」
「はい、わかりました。」
学級委員長は元の席に戻りました。
ひとりの男の子だけが1メートル15センチに挑戦しましたが、なかなか跳べません。耳の短いウサギは思わずみんなの前に飛び出しました。
そして、ぴょんぴょんと高跳びのバーに向かって走り出しました。
6年生は「あの動物、高跳びに挑戦するみたいだぞ」「ぴょんぴょん跳んでるから跳べるのかな?」「あの小ささでは無理だろう」「でも、動物にはすごい能力があるって先生がおっしゃっていたぞ」などと言いました。
6年生たちの落ち着いた注目の中、耳の短いウサギはバーの手前でビョーーーンとジャンプしました。
でも、ジャンプは1メートル15センチのバーには届きそうにもありません。
「やっぱり、無理だ」「仕方ないよ。小さいんだから」「やっぱり、動物の能力にも限界があるよね」6年生たちがそう言ったときです。
耳の短いウサギは、耳をぱたぱたさせてぐんぐん上に上っていきました。
1メートル15センチのバーを越えて、校舎を見下ろす高さまで飛んで見せました。
その時先生が叫びました。
「信じられん。ウサギのような動物が空を飛んでいる。すごい ! すごい ! 」
先生は夢中になってカメラを取り出し、パチパチと写真を撮ったり、小躍りしてウサギを追いかけたり、大声で他の先生を呼んだりしました。
「やった。今度は小学校の先生もボクのすごさをわかってくれたんだ」
耳の短いウサギがそう思ったとき、学級委員長がきっぱりと言いました。
「先生、ちゃんと授業を進めてください」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。


2021-12-21 19:16  nice!(0)  コメント(0) 

耳の短いウサギ その6 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、またまた小学校にやってきました。今度はうんと遅い時間に、もう、真っ暗になってからやってきました。
校庭にはさすがに誰もいませんでしたが、体育館は電灯が点いて明るく輝いていました。
耳の短いウサギは体育館に行ってみました。
中をのぞいてみると、お母さんたちがたくさん集まって、楽しそうにバレーボールをしていました。
「お母さんたちならボクのことをかわいいって言ってくれるに違いない」
そう思って、耳の短いウサギは体育館の中へ入っていきました。
体育館の中は、お母さんたちの笑顔でいっぱいでした。
「楽しそうだなあ」とウサギがぼーっと見ていると、ひとりのお母さんが気付いてくれました。
「きゃー、かわいい」「何これ ? ウサギ ? 」「耳がちっちゃくてかわいい ! 」
お母さんたちは耳の短いウサギをもみくちゃにしてかわいがりました。
耳の短いウサギは幸せのまっただ中にいました。
「うちのチームのマスコットにしようよ」「いいわね」
「連れて帰りたい ! 」「何かエサなかったかしら」
お母さんたちは試合も忘れてウサギに夢中です。
耳の短いウサギは「よーし、今がチャンスだ。ボクがすごいってことを教えなくちゃ」と思いました。
試合は進み、あと1点取ればチームは勝ちそうです。
耳の短いウサギは、この時だ、と、ひとりのお母さんの手に勝手にタッチをして、コートの中に入っていきました。そして、高く上がったボールに向かってぱたぱたと飛び上がり、ぴょんぴょんする強い足でボールをアタックしました。
ボールはみごとに相手コートに突き刺さりました。
お母さんたちは大喜び。
「すごい ! 」「勝った ! 勝った ! 」「ウサギちゃんが飛んだ ! 」「信じられない ! 」「ばんざい ! ウサギちゃん ! 」
「やった。お母さんたちもボクのすごさをわかってくれた」
耳の短いウサギがそう思ったとき、審判がきっぱりと言いました。
「マスコットは試合に出られません。退場 ! 」
耳の短いウサギはがっかりして山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。


2022-01-21 17:22  nice!(0)  コメント(0) 

耳の短いウサギ 番外編 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは東日本大震災の被災地にやってきました。
そこには、たくさんの亡くなった人たちがぼーっと海の方を眺めていました。
耳の短いウサギは、その人たちの前にぴょんぴょんとはりきって出て行きました。
そして、お空に向かって短い耳を立てました。
するとどうでしょう。短い耳から光線のような物がお空に向かってぴーーーーっと真っ直ぐに飛び出しました。
そして、お空のスクリーンに、いままで耳の短いウサギが見てきた物が次々と映し出されました。
1年生の笑顔、幼稚園児の笑顔、幼稚園の先生の笑顔、6年生の笑顔、小学校の先生の笑顔、バレーボールをしているお母さんたちの笑顔……
それを見た亡くなった人たちは、だんだん笑顔になり、みんな幸せの国へと旅立っていきました。
地面には太陽の光が降り注ぎ、新しい草がどんどん生えてきました。
希望の光が、全部を包み込みました。
耳の短いウサギは、今度はがっかりしないで、空高く飛び上がって、にこにこの笑顔で山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。


2022-02-22 00:00  nice!(0)  コメント(2) 

モモンガが感動したこと(耳の短いウサギの話スピンオフ) [耳の短いウサギシリーズ]

ある森に、かわいいモモンガが住んでいました。
モモンガは前足と後ろ足の間に膜があって、四本の足を広げて木から木へ、とてもかっこよく飛ぶことのできる動物です。
森では、「最近、ウサギが空を飛び始めたらしい」といううわさが流れていました。
それを聞いたモモンガは、「ウサギが空を飛ぶなんて、そんなバカな」と思いました。
そこで、ウサギが飛ぶところを見に行こうと出かけました。
ところが、ウサギは全然いません。探すのも面倒なので、モモンガは膜を広げてかっこよく空を飛びながら帰ろうと思いました。
すると、木の葉っぱが、ざざざざ、ざざざざっと動いているのに気が付きました。
「何かいるな。ウサギかもしれない」と思ったモモンガは、近くの木に着陸して様子をのぞき込みました。
すると、葉っぱがいっぱい付いた木の枝を、たくさんのリスが走り回っていました。
「なんだ、リスか」そう思って帰ろうとしたとき、リスたちが、木の枝の先からピョーーーーンと跳びました。でも、近くの枝までも跳ぶことができずに、どてっと落ちたりしていました。
モモンガは、おなかをかかえて笑いながら、「ウサギが飛ぶっていう話を聞いて、リスたちも飛ぶ練習を始めたんだな。バカだなぁ、リスが飛べるわけないのに……」と言いました。
モモンガに笑われても、リスたちの練習は続きました。何度も何度も、落ちても落ちても、リスたちは一所懸命に飛ぶ練習を続けました。
すると、ある1匹が10メートルも離れた枝まで、見事にジャンプしました。続いて他のリスたちも次から次へと遠くまで飛び始めました。それはそれは見事なジャンプが続きました。
モモンガはびっくりしてぽかーーんと空を見上げました。
感動したモモンガは家に帰ってお母さんにリスたちの話をしました。
モモンガのお母さんは言いました。
「バカだねぇお前は。リスが飛ぶ練習をして、上手に飛べるようになったのがモモンガなんだよ。リスが飛べるのは当たり前じゃないか」
モモンガはまたまたびっくりして、水たまりの自分の姿を見に行き、「お母さんの言うことは本当だ。ウサギが飛ぶというのも本当にちがいない」と思いました。
じゃ、おやすみ。


2022-03-22 06:50  nice!(0)  コメント(0) 

耳の短いウサギ その7 [耳の短いウサギシリーズ]

ある山に一匹だけ耳の短いウサギがいました。
本当はウサギは鳥のように1羽2羽と数えます。
耳の短いウサギは、最近、リスが飛ぶ練習を頑張ってモモンガに進化したらしい、とか、働きアリの1年生がみんなで楽しそうに空を飛んでいた、といううわさを聞きました。
そこで、「虫や動物はみんな、練習すれば空を飛べるのかもしれない」と思い、動物たちに飛び方を教える先生になろうと考えました。
そこで、耳を伸ばす体操を念入りにしてから、張り切って森の動物たちに会いに行きました。
最初に出会った動物はウマでした。ウマは野原を優雅に走っていました。
張り切っているウサギは、すぐにウマに近付いていって、耳の伸ばし方を教えました。でも、ウマは「フン」と鼻で笑っています。
ウサギは、「空を飛ぶことはすばらしいことなんだよ」と一生懸命説明しましたが、ウマは「何言ってんの」という顔をしていました。
ウサギはますます張り切って飛び方を教えようとしましたが、ウマは無視して走り出し、ウサギが見ている目の前でペガサスになって天高く飛んでいきました。
耳の短いウサギはびっくり。
「やっぱり、動物はみんな飛べるんだ ! 」とわかりました。
次に出会ったクモも、ウサギが教えなくても、糸を上手に空にのばしてフワリと飛んでいきました。
耳の短いウサギはますます張り切りました。
次にウサギはタヌキに会いました。
ウサギはタヌキに「君も空を飛べるんだよ」と説明し、耳を伸ばす体操をさせてから、崖の上からジャンプさせました。
でも、タヌキは崖の底に真っ逆さまに落ちていったきりでした。
耳の短いウサギは、すまなそうに山に帰っていきました。
じゃ、おやすみ。


2022-04-22 18:15  nice!(0)  コメント(0) 

崖から落ちたタヌキ(耳の短いウサギの話スピンオフ) [耳の短いウサギシリーズ]

崖から落ちたタヌキは、「あのウサギめ、でたらめを教えやがって、ふんづかまえてひどいめにしてやる」と思いました。
森の中をヨロヨロと歩きながら「耳の短いウサギを見なかったか ? 」「耳の短いウサギを知らないか ? 」とたずねて歩きました。
でも、そうきかれたみんなは口をそろえて「バカか、おまえは。耳が短かったらウサギじゃないだろう」「耳が長いのをウサギって言うんだぞ」と言いました。
そう言われると「そうかもしれないな」と思えてきました。
「じゃ、あいつはいったい何だったんだ ? 」タヌキはあたまを強くぶつけたせいもあって、何が何だかわからなくなってきてしまいました。
そこに、1匹のメスのタヌキがやってきました。
メスのタヌキは「どうしたの ? 」とききました。
フラフラのタヌキが説明すると「まぁ、かわいそうに」とかわいい顔で微笑みながら優しく言いました。
その様子を見て、フラフラのタヌキは胸がキュンとなり、メスのタヌキが大好きになってしまいました。
メスのタヌキは「私についてきて。いいところを教えてあげる」と言いました。
フラフラのタヌキは、このメスのタヌキの言うところならどこへだってついていきたい気持ちでした。
2匹で仲良く話をしながら歩いている間、タヌキはとても幸せな気分でした。
耳の短いウサギのことも許してやろう、という気持ちになってきました。
メスのタヌキはとても楽しい話をしながら、タヌキの体を心配してくれたりしました。タヌキはメスのタヌキのことがますます大好きになってきました。
しばらく歩くと、メスのタヌキが「この崖を登った所よ」と言いました。
タヌキは「何があるのかな ? 」とワクワクしました。
崖を登るとメスのタヌキは「ほら、見て。きれいな湖でしょう ? 」と言いました。見ると、それはそれは美しい湖がありました。タヌキはしばらく見とれていました。
メスのタヌキは「ここなら空を飛ぶ練習をしても、水に落ちるだけだから痛くないわよ」と言いました。
タヌキは「えっ ? 」って思いましたが、メスのタヌキがかわいい顔で言うので「そうかぁ。本当だ。これなら安心。今度こそ空を飛べるに決まってるさ」
と言って、耳を伸ばす体操をしてから「えい ! 」と崖からジャンプしました。
メスのタヌキはタヌキが空を飛ぶところを一目見ようと身を乗り出して見ましたが、見えたのは水しぶきだけでした。
じゃ、おやすみ。

タグ: 水しぶき


2022-05-22 19:50  nice!(0)  コメント(0) 

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