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読み上げ版 犬は覚えていた [ちょっと大人向けかな?シリーズ]



ある町に、目の不自由な子供が住んでいました。
この子の友達は1匹の柴犬だけでした。
子供はいつも柴犬と一緒に同じ道を散歩していました。
ある日、いつものように柴犬を連れて歩いていると、一人の女の人に話しかけられました。
女の人は「この町にTさんって言う人が住んでいるか知ってる ? 」とたずねてきました。
子供は「Tさんなら、僕の家の隣の人だよ」と答えました。
女の人は「まあ、よかった ! Tさんのおうちまで案内してくれるかな ? 」と言いましたので、「いいよ。でもボクはいつも同じ道しか通れないんだ。だから、これからずっと向こうまで歩いてからじゃないとうちには戻らないよ」と言いました。
女の人は「いいわよ。急いでいるわけじゃないし、いっしょに歩きましょ」と言ってついてきました。
歩いている間、女の人は子供にどんな食べ物が好きか、とか、学校は行っているのか、とか、お父さんとは仲良しか、とか、最近楽しいことはあったか、とか、いろいろなことをきいてきました。子供は「ずいぶんといろんなことをきく人だなぁ」と、すこし面倒くさくなってきました。
「もうすぐ、Tさんのうちだよ」と子供が言うと、女の人は最後に「おばあさんとは、仲良くしているの ? 」とききました。
子供は「おばあちゃんなら、去年亡くなりました」と答えました。女の人は、ちょっと立ち止まったようでしたが、子供にすぐに追いついてついてきました。
「ここがボクのうちだから、お隣がTさんのうちだよ」と言いました。
「ありがとう。ぼうや」と言って、女の人はTさんのうちの方へ歩いていきました。
その時、柴犬が女の人の方へ子供を無理矢理連れて行くようにひっぱりました。
びっくりして、子供は「わぁ! 」と言って転んでしまいました。
それでも柴犬は子供を引っ張り続けます。そんなことは初めてだったので子供はどうしていいのかわからなくなり、「えええーん」と泣いてしまいました。
すると、子供はなんだかとても懐かしく、とても軟らかい物に体を包まれました。
驚いて泣き止んだのに、ほっぺたに冷たい涙が落ちてきました。それは、自分を包み込んでいる物が流している涙だとわかりました。
女の人の声が聞こえてきました。
「ごめんね。ごめんね」
「私、おばあちゃんとケンカして5年前にあなたとパパをおいて出て行ってしまったの。ママのこと覚えていないでしょうけれど、もう一度、一緒に暮らしたくて会いに来てしまったの」
子供は嬉しそうに「ママ」と言いました。
「ボクは目が見えないし、小さかったからママのことを覚えてはいないけれど、犬はママのことを覚えていたんだよ。お散歩しているときも、いつもより嬉しそうだなって感じていたんだ、ボク」
子供は、もう一度懐かしくてとっても軟らかい物に包まれました。ママと子供の濡れたほっぺを柴犬がベロっとなめました。
今まで、つらいこともたくさんあった子供でしたが、それからはとても幸せに過ごしました。
じゃ、おやすみ。


2023-10-29 22:57  nice!(0)  コメント(0) 
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