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読み上げ版 見えない両腕 [ちょっと大人向けかな?シリーズ]




あの時は、ほんのちょっとの不注意だった。
ボクは19歳で、自動車の免許を取ったばかり。お父さんが頑張ったボクを褒めてくれて、小さな、でもとってもかっこいい車を買ってくれた。
ボクはうれしくて、友達を乗せてドライブに出かけた。
そして、ボクはほんのちょっとの不注意を犯した。
ボクの車はただの鉄の固まりのようになり、ボクは気を失って病院に運ばれたらしい。
ボクは両方の腕を失った。
それはとてもショックな事だったけれど、一緒に乗ってくれていた友達が奇跡的に少しケガをしただけで済んだと聞いて、とても嬉しい気持ちでいた。
友達とは、高校の水泳部で知り合い、大学生になっても仲良くしていた。その友達がボクの所へ見舞いに来てくれた。
友達はボクの顔を見てやさしく微笑んでくれた。
ボクは、「お前が無事で、本当によかった。もし、お前が死んでいたりしたら、俺は生きていられなかった」と言った。
それを聞いた友達は、ボクにびっくりするような宿題を告げた。

友達の宿題を果たすのに8年かかった。  今日がその日だ。
ボクは、友達との約束を果たすために、今、ロンドンにいる。
両腕を失ったボクは、死ぬような努力をしてロンドンパラリンピックの競泳プールに立っていた。
「もう、どんな不注意も犯さない」ボクはこれから自分がしなければならないことを全て確実に行うことだけに集中していた。
平泳ぎのレースが始まり、ボクは、目には見えない両腕で必死に水をかいて進んだ。
ボクは5番でゴールした。
メダルは取れなかったが、友達との約束の通り、このパラリンピックの舞台で、ケガをする前の自分の記録を破ったのだった。
ケガをして全てがダメになったわけじゃなかった。
家族も、友達も涙を流して喜んでくれた。ボクも涙が流れた。
友達が、「4年後はメダルだ ! 」と泣きながら叫んだ。
ボクは「俺、これからも頑張るから、どんどん宿題を出してくれ」と言った。
ボクたちは生きていることの幸せの中にいた。
じゃ、おやすみ。


2024-04-05 16:20  nice!(0)  コメント(0) 
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読み上げ版 白と黒の小鳥 [小さな動物シリーズ]



ある町に女の子が住んでいました。
その町には、たくさんの木が植えてあり、たくさんの花が咲いていました。
女の子は町中が公園みたいなこの町でのびのびと遊んでいました。
この町には、たくさんの小鳥たちも遊びにやってきました。
女の子の、一番のお気に入りの小鳥はセキレイでした。
「セキレイきれい。セキレイきれい」と女の子はいつも歌っていました。
セキレイのどこがそんなに好きかと言うと、鳥なのに、飛ぶよりも走るのが好きみたいに、いつもそこらへんを走り回っているところが好きなのでした。
飛んでいる鳥は遠くて見えません。鳩のように近づいても全然逃げず、かえって近づいてくる鳥は、ちょっと怖いのですが、セキレイは地面を走っているので小さな女の子にもよく見えますし、追いかけると、ちょうどいい早さで逃げてくれるので、一緒に遊んでいるみたいで楽しいのです。走る姿もシャンとしていて立派です。
それと、体の模様が白と黒でとってもきれいです。
ある日、ひとりのおじいさんが木の下のベンチで新聞を読んでいたとき、足元をセキレイがチョロチョロと走り回りました。
おじいさんは、「なんだ、セキレイか。かわいい走り方をするなぁ」と思いました。
おじいさんが微笑んだのに気付いたかのように、セキレイはおじいさんに少しずつ近づいてきました。
おじいさんは、「セキレイが人に近寄ってくるなんて、珍しいなぁ」と思いました。
すると、セキレイはおじいさんの膝から肩に登ってきました。おじいさんはびっくり。「こんなに人に慣れたセキレイは初めてだ」
そして、おじいさんは思い出しました。
「セキレイと言えば、幼なじみのばあさんが子供の頃に、よく追いかけっこをして遊んだと言っていたなぁ。久しぶりに会いに行ってみるかな」
そう言ったのがわかったかのようにセキレイはうれしそうに空へ飛んでいきました。
幼なじみのおばあさんの家を訪ねてみると、「おばあさんは今朝、死んでしまいました。とても安らかに、幸せそうに亡くなったんですよ」と家の人が教えてくれました。
おじいさんはびっくりしましたが、その家の上の空をうれしそうに飛んでいるセキレイをみつけると、不思議と幸せな気持ちになっていました。
じゃ、おやすみ。


2024-03-13 18:41  nice!(0)  コメント(0) 
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読み上げ版 青虫の悩み [小さな動物シリーズ]



ある森の中に、一匹の青虫が住んでいました。
青虫は花粉症でした。
春が近づいてくると、花粉で目がかゆくなり、鼻はむずむずして大変でした。
春はたくさんの葉っぱを食べて大きくならなければならないのに、花粉症の青虫は葉っぱに近づくことも出来ないでいました。
心配した仲間の青虫は青虫大王に裁判をしてもらうことにしました。
青虫大王は花粉症の青虫に言いました。
「おまえは青虫のくせに葉っぱに近づくことも出来ないそうじゃないか。青虫としてはまことに情けない。罰として、今すぐ花粉を10粒食べて見せなさい」
花粉症の青虫は泣きながら言いました。
「そんなぁ、見ただけでも涙が出てくる花粉を食べるなんて無理ですよぉ」
でも、青虫大王はきっぱりと言いました。
「だめだ。いますぐ食べなさい」
大王の命令ですから仕方がありません。青虫は目をつぶりながら花粉をガリガリっと食べました。
するとどうでしょう。噛んでしまえば花粉は何ともありません。
「平気だ !」花粉症の青虫はびっくりして叫びました。
大王は言いました。
「自分が苦手な物から逃げてばかりいるのは間違いなのだ。苦手な物やばい菌のない世界はない。ばい菌とも一緒に生きるのだ。わかったな!」
大王のきびしい教えのおかげで青虫は強くなりました。そして、夏を迎える頃には立派な羽を持った大きな蝶になることができました。
青虫が成長した蝶は、自分の羽からまき散らす粉のためにくしゃみをしながら、今日も大空を力強く飛び回っています。
じゃ、おやすみ。


2024-02-17 09:02  nice!(0)  コメント(0) 
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