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桜の花とおばあさん [作者のおすすめ]

Sくんは、「こんなこともあるんだなぁ」と驚いていました。
それは、半年ほど前のことでした。
Sくんは、満開の桜を見に、近くの川岸に行きました。
桜はみごとに咲いていました。たくさんの人たちが桜の花を見に来ていました。
Sくんは風で舞い落ちてきた花びらを楽しそうに拾って遊びました。
ポケットいっぱいに花びらがたまったころ、ひとりのおばあさんが立っていることに気が付きました。
おばあさんはSくんのことをじっと見つめていたのです。
Sくんは、「おばあさん、こんにちは」と挨拶しました。
ちょっと驚いたようにしてから、おばあさんも、「こんにちは、きれいな花が咲きましたねぇ」と微笑みました。
Sくんはお母さんの所へ戻ろうとしました。その時、おばあさんが、「ちょっと待って。そっちの道は川が近くて危ないから、こっちの道を行きなさい」と言いました。
Sくんは、「うん、わかった。じゃあね」と言って、走り出しました。
その後、Sくんはお母さんから、そのおばあさんの話を聞きました。
そのおばあさんがいつもこの川岸に桜を見に来ていること。おばあさんの孫の男の子が10年くらい前に川に落ちて行方不明になってしまったこと。それは、春の嵐と言えるような風の強い日に起きてしまったこと。でした。
Sくんは、「ふーん、ボクは川に落ちたりしないように気をつけて遊びます」と言いました。お母さんはSくんをつよく抱きしめました。
その次の日でした。とても強い南風が吹き、嵐のような音を立てました。
満開だった桜の花は風に飛ばされ、川は桜色の絨毯のようになりました。
Sくんは小学校の帰りに川岸に来ていました。
Sくんは川に落ちた花びらを拾おうと手を伸ばしました。
その時、「危ない ! 」と言って、あのおばあさんがSくんの体を引っ張りました。そして、「川に近づいちゃダメ ! 」と言ってSくんを強く抱きしめました。おばあさんの体がガタガタと震えているのがわかりました。
Sくんは、「おばあちゃん、ごめんね。ボク、絶対に川に落ちたりしないからね」と言いました。
おばあさんは、「絶対に。約束よ」と言って指切りをしました。
それから半年が経った今日、Sくんはお母さんに連れられて、おばあさんのお葬式に行きました。
Sくんは、とても寂しい気持ちでお母さんと歩いて帰りました。
秋の柔らかな日差しが町を包んでいました。Sくんは「おばあちゃんは、孫の男の子に会っているのかなぁ」と思いました。
その時、川岸の桜が咲いていることに気が付きました。
「お母さん ! 秋なのに、桜の花が咲いているよ ! 」Sくんは叫びました。
「本当ね。春にちゃんと咲かないうちに散ってしまった花は、秋にもう一回咲くことがあるって聞いたことがあるわ」とお母さんが言いました。
Sくんは、「こんなこともあるんだなぁ」と驚いていました。
Sくんは「おばあちゃんは、絶対に孫の男の子に会えたんだ」と思いました。
じゃ、おやすみ。

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2012-04-16 08:28  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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