料理人の気持ちをささえるもの [ちょっと大人向けかな?シリーズ]
ある町に一軒のレストランがありました。
ずいぶん古くから開いているので、店はいい感じに古びて、町でも人気のレストランでした。
そのレストランに年を取ったある夫婦が食事をしに来ました。
夫が「窓際の席は空いていますか ? 」とたずねました。
お店の人は、「はい、空いております。ようこそいらっしゃいました」と言って、夫婦を窓際の席に案内しました。
夫婦は、しばらくは座ったまま何も話さずにいました。
気を利かせた店の人が、「本日はとてもおいしいヒラメの料理をご用意しておりますが、いかがでしょうか ? 」と話しかけますと、夫は「ありがとう。では、それを。……それから、スープはレタスのコンソメにしていただけますかな ? 」と言いました。
お店の人は「かしこまりました。どうぞ、お楽しみ下さい」と言って下がりました。
お店の人は、音楽をクラシック曲に変えました。
食事も進んで、デザートの前になり、お店の人は、「失礼ですが、今日はお二人の記念日ではございませんか ? 」とたずねました。
夫は、「はい、実は、今日は私どもの60何回目かの結婚記念日なのです。ただし、私どもは結婚式を挙げていませんので、60数年前にプロポーズをした記念日なのです」とこたえました。
「やはり、そうでしたか。以前、父にそのような方がいらっしゃったと聞いていたものですから、もしかして、と思ってきいてみたのです。実は、死んだ父から預かっているものがあるのです」と言って、ふたりに古い写真を手渡しました。
そこには、嬉しそうな若者と恥ずかしそうに顔を赤くしている若い女性が写っていました。
ふたりはびっくりしました。
「この日から、父はいつもメニューにレタスのコンソメスープを入れるようにしたと言っておりました。この時のお二人の幸せなお顔を見て、レストランの喜びはこれだ、と感じたそうです。ですから、その時写したお二人の写真をいつも飾って、その時の気持ちを忘れないようにして料理を作り続けてきたそうです。亡くなるときに、「もし、あのお二人が店をたずねて下さることがあったら、この写真をお見せするように、」と預かっておりました」
お店の人の言葉を聞いて、妻は、あの時のような恥ずかしそうな顔をしました。
お店の人は、「私もお二人のお顔を励みにして料理を作らせていただいていいでしょうか ? 」とききました。
夫は、「ありがとう。私たちの笑顔を励みにお店を続けて来られたとは、私たちもとても嬉しいです。逆に、私は、あの日あなたのお父様に激励されて妻にプロポーズすることができたのです。あの日から60年以上、私たちはとても幸せに過ごせました」と言いました。
お店の人は、にっこりと微笑みながら、甘いケーキをテーブルに運びました。
じゃ、おやすみ。
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