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古い映画館が待っているもの [ちょっと大人向けかな?シリーズ]

ある小さな町に古い映画館がありました。
建物も古いのですが、やってる映画も古いので、お客さんはほとんど来てくれませんでした。
映画館は損ばかりしていましたが、社長のおじいさんは昔から大きな土地を持っていましたので、映画館を続けることは出来ていました。
この社長さんは「絶対にこの映画館はやめない。わしの願いが叶うまでな」と言っていました。
映画館の人たちは、社長の願いを知っていましたが、それがかなった方がいいのか、叶わないで映画館がずっと続いた方がいいのか、迷っていました。
そんなある日、社長が急に倒れてしまいました。
映画館の人たちは、社長の病院に呼ばれました。
「お前たちは、わしがこの流行らない映画館を続けてきた理由は知っているはずだ。だが、それはもうあきらめた。そろそろあの映画館も終わりにしなければならないだろう。すまないが、次の仕事を考えていてくれ」
社長はそこまで言うのもやっとの状態でした。
映画館の人たちは映画館に帰って、話し合いました。
「この映画館は、本当は、もうずいぶん前に終わっていたんだ。今までここで働かせてもらったお礼だけは、なんとしてもしたいものだ」
「社長の願いを叶えてあげることは無理だが、せめて、最後はたくさんのお客さんにこの映画館に来てもらいたいものだ」
「よし、今までの全ての思いを込めて、頑張ろう」
映画館の人たちの心はひとつになっていました。
映画館の最後を1週間後の土曜日と決めて、町の人たちひとりひとりにチラシを配って歩きました。
町の人たちは「小さい頃にはよく映画を見に行ったものだったなぁ」などと言って、「必ず行くよ」と言ってくれました。
そして、映画館の最後の日が来ました。
社長は、この日だけ病院から外出の許可をもらって映画館に来ていました。
映画館は、この古い映画館を懐かしむ人、お別れを告げに来た人でいっぱいになりました。
社長に代わって映画館の人が挨拶をして、最後の映画が始まりました。
映画が終わって、映画館には拍手が起こりました。
その時、ひとりの女の人が社長に近付いてきて言いました。
「わたしは、あなたが探していらっしゃるというKの娘です。Kは10年も前に亡くなりましたので、もうあなたに会うことはできません」
社長は小さな声で答えました。「そうでしたか。30年以上前、わしはあなたのお母様に、もし、わしと結婚してくれるのなら土曜日の最終回の映画を見に来てくれと頼みました。何年先でも待っているとも言いました。そして、わしは30年以上も待っていました。この日を」
「すみません。母は、次の年には父と結婚しました。私を産んですぐに父が商売に失敗し、あまり幸せではない人生でした。この映画館に来ていれば、母もあなたも違った人生を送れたでしょうに…」
「それも人の人生なのですよ。おかげでわしは、30年以上もドキドキしながら楽しい人生が送れました。あなたのお母様には感謝しておりますし、今でも大好きです」
古い映画館には、どんな素敵な映画も叶わないほどの拍手がわき起こりました。
じゃ、おやすみ。

タグ:映画館 約束


2022-08-22 07:20  nice!(0)  コメント(0) 
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